← 入国審査場へ戻る

EDITOR'S ROOM

編集室

この国の数字を集めて、並べて、文章にしている者です。名乗るほどのものでもないので、編集人とだけ。案内人の京と橙子が表に立ち、こちらは奥の部屋で数えています。

まず、面白がってほしい

政府統計は誰でも見られます。表番号を打ち込めば、その日のうちに47都道府県の数字が手に入る。それなのに、わざわざ見に行く人は多くありません。表が大きすぎて、どこを見ればいいのか分からないからだと思います。

だから展示を作りました。「日本一ごみを出す県はどこだ」と聞かれれば、少しは気になる。気になって開いてみたら、上位と下位の顔ぶれが予想と違っていて、もう一段気になる。そこまで来れば、統計はもう遠いものではなくなっています。

そのうえで、自分の町を引けるように

ただ、読んで面白かった、で終わってしまうと、それきりです。47都道府県を並べた表は、眺めているうちは景色ですが、そこに自分の住んでいる町の数字が出てくると、急に近くなります。

閲覧室は、そのために置いています。県や市区町村を選べば、その土地の数字がその場で出てくる。保育所は近いか、通勤は何で行っているか、町の財政はどうか。引きたくなったときに引ける場所が、この国にはあります。

展示のほうから入って、閲覧室のほうへ抜けてもらえたら、いちばん嬉しい形です。

作っている側が、いちばん驚いている

正直に言うと、いちばん面白がっているのは私です。展示の一本ごとに、自分の思い込みが外れていきます。

ごみの量は増えていると思っていました。実際に時系列を並べてみると、ずいぶん減っている。てっきり分別が進んだからだろうと考えて、リサイクル率のほうも見てみたら、そちらはほとんど動いていませんでした。減っていたのは、そもそも捨てる量のほうだった。

本を読む人とマンガを読む人を並べたときは、全国ではマンガのほうが多いという結果でした。並べるまで、逆だと思い込んでいました。山を歩く人の割合を調べたときは、山の多い県ほど上位に来るだろうと予想して、まったく当たりませんでした。

調べる前に頭の中にあった「たぶんこうだろう」が、数字を並べた瞬間に崩れる。この感覚が面白くて続けています。展示を読んだ方にも、同じところで足を止めてもらえたら、この国を作った意味があります。

どう作っているか

数字はすべて、政府統計の総合窓口〈e-Stat〉から機械的に取っています。手で書き写している箇所はありません。月のはじめに全部を取り直すので、統計が新しくなれば、この国の数字も自動で入れ替わります。

そのぶん、文章の書き方に気をつけています。本文に県名や数字を直接書いてしまうと、統計が更新されたときに文章のほうが嘘になる。だから「いちばん多いのは○○県」と書く代わりに、そのつど計算した結果を差し込む形にしています。来月には別の県名が入っているかもしれません。

もとの数字をそのまま並べるのではなく、割合や「1人あたり」に直しているものもあります。人口の多い県が上位を占めるだけの表になってしまうと、比べる意味が薄いからです。どの表から取った数字かは、出典一覧にすべて載せています。

書かないと決めていること

この国でいちばん時間をかけているのは、実は書かない判断のほうです。

順位の理由を推測しない。ある県が上位なのはなぜか、統計は答えてくれません。それらしい理由を添えれば読み物としては据わりがよくなりますが、それは私の想像であって、数字が言っていることではない。だから並べるだけにしています。

県を悪く言わない。下位に来た県について、生活の質が低いとか、意識が足りないといった書き方はしません。分布の端にいることと、そこに住む人がどうかということは、まったく別の話です。

結びつきを因果に読み替えない。二つの数字が似た動きをしていても、片方がもう片方の原因だとは限りません。ごみの展示では、排出量とリサイクル率にほとんど関係がありませんでした。「多く出す県ほど再生しない」と書きたくなる場面でしたが、数字はそう言っていなかった。

思い込みで括らない。釣りをする人の割合を調べたとき、下位に並んだ県を見て「海のない県」と書きかけました。並んでいたのは東京と千葉で、どちらも海に面しています。書く前に一県ずつ確かめて、書き直しました。この手の間違いは、思いついた瞬間はもっともらしく見えるので厄介です。

数字の素性を隠さない。晴れの展示で使った「快晴の日数」は、観測のしかたが変わったために、もう更新されない数字です。黙って最新のように並べることもできましたが、そう注記しました。古い数字は古いと分かる形で置くほうが、読む人にとって親切だと思います。

間違いを見つけたら

気をつけていても、間違いは出ます。数字の取り違え、単位の誤り、言い過ぎた表現。見つけたときは直しますし、指摘していただければ助かります。連絡の先は利用規約・お問い合わせに置いています。

直したことは瓦版に書きます。何を間違えて、どう直したかが残っているほうが、この国の数字は信用してもらえると思うからです。

この国の成り立ちについては入国審査場を、数字の読み方については統計の歩き方をご覧ください。